学生時代のこと。
大学時代、たまに友達とゴルフをして遊んでいた。北海道の室蘭市。一番安い打ちっぱなし練習場に行ったり、海岸で友達とバンカーの練習をしたこともあった。大してうまくはないんだけどね。いまだに100を切ることはなく、今に至ってはゴルフはほとんどしなくなった。
室蘭の市街からちょっと丘に登ったところにハーフサイズのゴルフコースがある。あんまり専門用語わかんないけど、パー3のコースが9ホールくらいある小さなところでドライバー使用禁止。でも俺らの腕前ではそのコースでも苦戦していて、ゴルフと呼べるようなまともなスコアなんか出ることもなく、途中でだいたい、何打打ったかわからなくなる。
そのコース、早朝割引というのがある。通常3000円か4000円(はっきり覚えていないけれども)のところ、なんと1000円で時間まで廻り放題というシステム。友達と朝3時ごろ起床して、朝9時までコース内を走り回りながら、多いときには4周(4ラウンド?)したこともあった。そういうと、それなりに上手なように見えるかもしれないが、なんせコツがわかっていないので、まともに球が上がることはあまりなく、ほとんどの球が谷底に消えていくような感じ。ロストボールを拾いながら遊んでいる感じだった。
ある夏の日。その日も制限時間ギリギリの9時までプレーし、車の中で缶コーヒーを飲みながら友達と一服していた。すると、友達の1人が突然思い出した。
「おっ、今日20日か?とり金のカレーが食えるな。」
「とり金」とは室蘭の隣、幌別にあるラーメン屋で、ラーメンよりも定食類が人気のお店。値段もそこそこ安く、学生さんにも人気のお店。そのお店で毎月20日、20食限定で「特製とり金カレー」というものを出していた。友達の間では憧れの的であったが、食べるタイミングを逃し続けていた一品であった。
ヨシッとばかりに車を走らせ、まっしぐらにとり金に向った。11時開店のとり金前で30分ほど待機し開店と同時に店内へ乱入、席に座るより早く「特製とり金カレーを3つ」注文した。
席へ向い、出された水を一口飲んで緊張を紛らわせるも、3人の頭の中はカレーへの期待で満たされ、ソワソワ落ち着かない。客の数も少しずつ増えていく中、「まだかなー。まだかなー。」と心の中で思いながら、その時を待っていた。
そしてついに!幻の特製カレーが運ばれてきた。
さすが特製カレー、見た目からしてそんじゃそこらのカレーとは違う。色ツヤにおい、全てにおいて他を圧倒している。ついに夢にまで見た瞬間。ライスとルゥを半分ずつスプーンにとり口へ運ぶ。
次の瞬間、3人の体全体に衝撃が走る!汗が吹き出る!!
「!!・・・なっ・・・!? かっ・・・辛っ!!!」
3人の舌は瞬時に崩壊し、3人は無言の互いを見つめる。脳みそからは、生命としての危険信号が即座に発信される。水なんかまるで通用しない。
舌の中までしみ込んでくる辛さ。辛いっていうよりもう痛い。
だがここは筋金入りの貧乏学生。自分でカレーなんて作ったら3日3食全部カレー、腐り始めてきたらカレーうどんにして味をごまかすって領域。乗ってる車だって、ハンドブレーキを外してニュートラルに入れれば、押してあげれば動く動く。
特製カレーなんぞに負けてられない。
水とため息で現実逃避しつつ、噴出す汗をぬぐい、無言で食べ続け・・・ついに悪魔をこの世から抹殺。口の中が完全に崩壊。手で突付いても感覚が無い。俺の舌、今どこにいる?ってか付いてる?って感じ。
だが・・・本当の地獄はここからだった。
「…ちょっと辛かったけど・・・うまかったな。」とか、「さすが特製カレー、香りが違う。ヨーロッパ風かな。」とか、たわ言を吐きつつ勝者の余韻に浸っていたその時。店のおばちゃんが味噌ラーメンを手に近づいてくる。
「これ・・・間違って作っちゃったから食べていいよ。」
なっ・・・なにっ!?・・・なんですと!?
もはや地獄の大魔王が復活しましたとしか聞こえない。おばちゃん、もうちょっと気の利いた時に間違っておくれ。
「えっ?・・・あっ、ありがとう御座います・・・なんかすいません・・・エヘヘッ。」と変な愛想笑いをしつつ受け取ってしまった以上、なんかこう、かえって全部食べなきゃ申し訳ないって感じがしますよね。
あとはもう、味なんて当然感じない。舌がどこにあるのかもわかんない。半分意識を失いながら味噌ラーメンを平らげ、お店を後にしたのでした。
現在、あの懐かしの「とり金」はすでにお店をたたんでしまったそう。いつかまた、とり金の鳥チャップやぶた味噌を食べたかったなーと思いつつ。
以上、ゴルフの話じゃなかったの?ってお話でした。
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